マエダシゲミチの日記

30歳 Webディレクター 東京なう

【書を使う】私とは何か 「個人」から「分人」へ 著:平野啓一郎

私とは何か 「個人」から「分人」へ 著:平野啓一郎

■目次・概要

(目次)

  • 第1章:「本当の自分」はどこにあるか
  • 第2章:分人とは何か
  • 第3章:自分と他者を見つめ直す
  • 第4章:愛すること・死ぬこと
  • 第5章:分断を超えて

 

(概要)

筆者の「分人」という考え方が、最初はスンナリと飲み込めず、読むのに時間がかかりました。

おそらく3時間くらいは、この本と格闘していた気がします。

ただ、八方美人について記載した章を読んで、ようやく作者の言いたいことが理解できたような気がして、その後はスラスラと読めました。

筆者の言う「分人」は、「本当の自分」は存在しないという考えをベースにしていて、そこが従来の考え方とは違う点でした。

人間はさまざまな顔=「分人」の集まりで、その時々に応じて異なる自分が顔を出す。

それぞれが、自分であることを認めることを是としているところが新しく、これを読んで救われる人がいるのではないかとも思いました。

今までの書と比べて少々難解でしたが、感想文を書いていきます。よろしくお願いします。

 

■八方美人はなぜムカツクか

私たちは、こちらが好意や尊敬を抱いている人からは、自分の個性を認めてもらった上でつきあってほしいという願望を抱いているとのこと。

つまり、分人の下手さが人を不愉快にさせるということです。

相手が誰かもかまわず、1個の最適解を常に出すから、誰とも最終的には関係を深めることができないというのは、自分もやってしまいそうなので注意しないといけないなと思いました。

途中、筆者がフランスの有名なパティシエと対談した時に、「社会的な分人」、「クリエイター同士」、「本をきっかけにより相手に特化した分人」と段階を踏んで、仲を深めたエピソードが紹介されていました。

つまり、分人というのは、相手と一緒に細分化していくものだそうです。

時々、初対面の相手に対して、どれくらい踏み込んでいいかを考えるときがあるのですが、こちらの考え方は参考になると思いました。

一歩一歩、分人を細分化して深めていくような感覚で人と接すればいいのだなと今は思います。

 

■私が口出し、影響を及ぼすことが出来るのは、相手の私に対する分人までである。

たびたび相談を受けることがあって、その時に「どこまで相手にとって影響力のあることをいうか」ということを毎回考えます。

作者も「言葉には、相手の人生の自由をどこかで奪うような暴力性がある。」と作中で述べていますが、非常にさじ加減が難しいと感じることがとても多いです。

自分は転職を2回しているので、その関連の質問を受けることが多いのですが、あまり方向性を決めるような発言はしないようにしています。

正直にいうと、「迷っているなら転職した方がいい」とすら思うのですが、実際は当たり障りのない回答をしてしまいます。

これは数年来の悩みだったのですが、この本を読んで解決したのかなと思いました。

相手が自分に向けているのは、ひとつの分人であり、自分が決定的なことを言ったとしても、あくまで分人に影響を与えるだけだと思うと気が楽になる気がします。

 

■私たちは半ば意識的に、半ばは無意識的に、これまでも分人の構成比率を考えながら生きてきた

人は基本的に変わらないが、変わるとしたら、つきあう人や読む本、住む場所が変わった結果、分人の構成比率が変化したからに他ならないらしいです。

意図的にいろんな人と関わり、いろいろな体験をすることで、自分の中の分人を広げることができるとのことです。

僕も意識していたわけではないが、定期的に住む場所を変え、つきあう人を変えてきた。いろいろな経験が、自分の幅を広げるという言い方はよく聞くが、筆者はあくまでも分人の構成比率を変えるという言い方をしています。

 

■好きな分人が一つずつ増えていくなら、私たちは、その分、自分に肯定的になれる

とても素敵な考え方だと思います。ドリカムの決戦の金曜日で「あなたといる時の私が一番好き」という歌詞がありますが、それを思い出しました。

自分はどちらかというと、自分が好きな人と一緒にいたいタイプなので非常に共感しました。恋愛というよりも愛に関して書かれた4章は、とても面白かったです。

自分や相手が死んでも、分人として相手の中で生き続けるというのは、亡くなった友人を思い出しウルっとしました。

よく「死んでも○○の心の中で生き続ける!」みたいな言葉がありますが、はじめて論理的に説明された気分でした。

 

■最後に

全編を通じて、自分が過去にうまくいかなかったことを振り返るいいきっかけになりました。

自分はどちらかというと、人によって態度を変えることを悪いことだと教育されて育ってきたので、もっと早く「分人」と「八方美人」の違いに気づけたらよかったなと思います。

オススメです。

 

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)